舞台 『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男』

■日時:2021年6月13日(日)12:00
■会場:久留米シティプラザ 1階O列サイドブロック
■演出:白井晃
■劇作・脚本:中島かずき
■音楽:三宅純
■出演:稲垣吾郎 中村橋之助 橋本淳 牧島輝 落合モトキ 藤原季節
清水葉月 智順 藤田秀世 有川マコト 松澤一之 田山涼成 榎木孝明 他

お話が面白そうだったけど、
チケット代の高さに諦めていた公演が
ここにきてたたき売り状態になっていました。
遠征を取りやめた方が多かったのかな。

ということで直前に手にしたチケット、
これが大当たり!
素晴らしい作品でした。

まあ、この時代の世界観、もともと好みではありますが、
重厚で濃密なお話に感嘆いたしました。

パリで唯一の死刑執行人サンソン。
冷酷無慈悲に殺していくように思われますが、
人間ですのでそんなことはなく、
いやむしろ、自分が職を失おうとも実は死刑廃止論者なのです。

当時は、斬首は貴族だけの特権で、
市民は車裂きなどの残酷な刑となり、
それは公開で行われ、鬱憤のたまった市民の娯楽となっていた。
斬首にしても、失敗すれば何度も刀を振り下ろすことになり
処刑者に多大な苦しみを与える。
そのためには日々身体を鍛え、
一気に振り下ろせる力と技術を常に保持しなければならない。

世間が不穏になり、処刑者が増え、
パリでただ一人の死刑執行人サンソンだけでは手に負えない。
そして絶対に失敗はできない。
何より、貴族か市民かという身分によって苦しみが違うのはおかしい、
平等で人道的な執行法を、
ということで
サンソンと協力者たちで
ギロチンを開発する。

その前に伏線がありまして、
サンソンがルイ16世のもとに参じた時、
ルイはオルゴールを作っていて、
もともと物を作ったり物理が好きだという話をする。

サンソンがギロチンの話を最初にした時も、
そこには刃の重さと高さが重要だということを
ルイは即座に理解し、
実際に試作の話の時には、
刃を斜めにした方が確実に切れることを指南する。

自分も制作に関わったルイが
自身もそのギロチンにかけられようとは。

ルイ自身は、処刑者であっても無駄な苦しみを与えるべきではないし、
市民の怒りを荒立てることは避けていた。
サンソンはそんなルイの聡明さを敬愛した。

これまでレミゼの市民・革命家の視点で見てきたことが
ルイの人柄や姿勢が描かれると
全く違う見え方になってくる。

市民の側も興奮し、
スパイ探しに懸命になり
魔女狩りのようなことになってくる。

無実も含め、処刑者の数は加速する。

ここでサンソンは苦悩する。
ギロチンで処刑がしやすくなったことが
処刑者を増やしているのではないか。

確かに時代的に罪人が増えたのはあるが、
果たしてそれだけか?

当時、死刑執行人は世襲制であり、
サンソン家は代々その職を受け継いできた。
サンソンも、法の、国の命令に従って
職務を遂行してきたわけです。
死刑執行人として世間から誹謗されるが、
実際に刑を決めたのはサンソンではなく裁判官です。

敬愛するルイの首も職務として刎ね
その後も3000人の刑を執行します。
戦争が人の心を狂わすように
正気でいられる方が不思議な仕事。

それでも職務を全うし、
これまで自分が執行した人たちの回想のうちに
舞台は幕を閉じました。

sasaがよく書いているように
ストプレはテーマが難しいことが多いので
よく置いていかれます。

でも、この作品では
世界史の知識が曖昧であっても
カタカナの登場人物たちの人間関係も
市民が何に怒っているかも
サンソンの心の動きや葛藤も
ほぼクリアに理解できました。
それぞれの思いにも共感できました。

これはひとえに
演出白井晃氏と脚本中島かずき氏の力だと思います。
衣装も舞台も美しかった。
音楽も深淵だった。
東京公演は途中から、大阪公演はすべて中止になった時でも
お稽古は続けていたそうです。
久留米公演は無事に駆け抜けました。

ほんとにその場にいられてよかったと思う
素晴らしい作品でした。

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