Category Archives: ミュージカル・お芝居

ヨーロッパ企画「切り裂かないけど攫いはするジャック」


■2023年10月14日(土)13:00 2時間休憩なし
■会場:キャナルシティ劇場
■出演:石田剛太 酒井善史 角田貴志 諏訪雅
土佐和成 中川晴樹 永野宗典 藤谷理子 /
金丸慎太郎 早織 藤松祥子 内田倭史 岡嶋秀昭

大好きなヨーロッパ企画。
古いロンドンの街並みのセットが魅力的で
そこにちょこりんと現れる永野オルソップ警部は
いつものように愛らしい。

事件を調べるために町の人に話を聞くのだけど、
みんな素人探偵気どりで自分勝手な推理を始める。
いやいや、推理が聞きたいのではなくて
事実が知りたいだけなんだ
と何度言ってもみんな暴走気味。
それに振り回される永野さんがいかにもコメディで好きだった。
藤谷さんのもっともらしく滑舌のよい推理を述べる夫人も
なんとも滑稽でよい。

舞台上には登場人物ほとんど全員がいるから雑踏感がある。
そこから一人ずつ、腰の曲がった老人(実は怪力)
が家の中に攫っていき、人が減っていく。

これが人攫いのようだけど、
実はもっと危険な目に遭わないように匿っていた
ような話になり、
そこから切り裂きジャックとか危険はジャックの名前がたくさん挙げられ、
結局、それが何なんだ、というのがわからないまま終わってしまった。

前半面白かったのになあ。
なんかいろいろあり過ぎて煙に巻かれてしまった。

ミュージカル『スリル・ミー』


■日時:2023年10月11日(火)19:00 休憩なしの100分
■会場:キャナルシティ劇場 K列サイドブロック
■出演:尾上松也、廣瀬友祐

噂には聞いていたこの作品、遂に見ることができました。
福岡に来たのは2組で
大人チームにしてみました。

「私」(尾上)が「彼」(廣瀬)のことが好きすぎて
気に入ってもらおうとなんでも言いなり。
「彼」はサイコパスで、最初は放火くらいだったのが
物足りなくなり殺人へ。
その理由はただ「スリルを味わうため」。
「彼」の方は「私」を好きというより
「私」を振り回すことが好き。
それに快感を覚えている。
冷たくすれば嫉妬にかられ、キスすれば舞い上がる
「私」の様子を楽しむ。

「私」は「彼」を誰にもとられたくない、
なんとかして自分の方を振り向かせたい
だから、そのためならどんなことでもする。

35年前の事件で無期刑になった「私」が
釈放のための審問を受ける
という設定でお話は始まります。
暗転のたびに、審問中の今になったり、
35年前になったり。

この時間の行ったり来たりと
ふりまわす「彼」と
ふりまわされる「私」
で、100分間観客も右に左に揺すぶられ
ずっと緊張が続く。

殺人の犯行現場に眼鏡を落としてきた
と、犯行が発覚することを恐れる「私」。
その恐れを「彼」に語るうちに
「彼」と「私」が共犯者であることで
一体感が深まってくる。
このあたりから、あーこれは「私」の術中にはまったな
ということが分かり始めてきた。

そして、その通り、全ては一緒に投獄されるため
ずっと一緒にいるための
「私」の策略だった。
最後に勝ったのは「私」。

あんなに強気で上位にいた「彼」は
すっかり強さを失い、
牢獄の中で消えていく。

結果、「私」も「彼」も幸せにはなれなかった。

とても面白かった。
二人だけのやりとりで魅せる舞台。
過去でいれば、松下×カッキーペアが伝説だけど、
成河×福士も見たかったなあ。

ペアを変えて何度でも観たくなる。
なんてうまくできた作品なのでしょう。

けど、福岡公演は席が全然埋まってなくて、
地方はこんなだからなかなか来てもらえないのかなあ。
福岡ってがんばってるつもりだけど、
まだまだだなあ。
発売から少し経っての購入だったのに
そこそこいい席があっさり取れたし。

この日はトークショーもありまして、
松也さんが言うには
「廣瀬くんの『彼』の威圧感がすごい。
どうやってぶち破るか」

確かに鋼鉄のような存在感でした。
美形でプリンスっぽいのに、
あんなに強くて冷徹なキャラがあうとは思ってなかった。

トーク自体は松也さんの方が慣れてるから
廣瀬さんはいろいろ振られても反応薄かったのですが、
実はポツリと話すことが無茶苦茶面白い。

鋼の「彼」とのギャップがすごくて魅力的でした。

他のペアでもぜひ観たい。

ミュージカル『RAGTIME』


■日時:2023年10月8日(日)12:30 3時間5分
■梅田芸術劇場
■出演:ターテ:石丸幹二
コールハウス・ウォーカー・Jr.:井上芳雄
マザー:安蘭けい
サラ:遥海
ファーザー:川口竜也
ヤンガーブラザー:東 啓介
エマ・ゴールドマン:土井ケイト
イヴリン・ネズビット:綺咲愛里
ハリー・フーディーニ:舘形比呂一
ヘンリー・フォード&グランドファーザー:畠中 洋
ブッカー・T・ワシントン:EXILE NESMITH
新川將人 塚本 直 木暮真一郎
井上一馬 井上真由子 尾関晃輔 小西のりゆき 斎藤准一郎 Sarry 中嶋紗希
原田真絢 般若愛実 藤咲みどり古川隼大 水島渓 水野貴以 山野靖博

あきらめていたこの作品、
休日出勤の代休が取れることになり
え?突然の3連休になった。
これを放っておく手はない!GO!

本来の目的は違ったのですが、
突然の計画だったので宿が取れずに大阪で泊まることになり、
なにげにおけぴ覗いたら
チケット放出されてまして。

ムーランほど派手じゃないし、
次のベートーヴェンの方が期待してしまうから
この作品あんまり話題になってなかったよね。

ところがこれが実際はとても良い作品でした。
決してハッピーエンドではないんだけど
心温まるという。

人種差別、貧富の差などがテーマで
王子は黒人のジャズピアニスト。
少しだけ濃い色のメイクです。
でもねえ、もともとプリンスキャラだから
少しくらい茶色くするだけでは全く黒人には見えない。
ここ、かなり違和感だった。
アジアンだって十分差別対象だから黄色人種ではダメだったのかな?
ジャズピアニストは難しいかもしれないけど。

コールハウス(井上)売れっ子ピアニストになって

フォードの自動車買ったら
白人にボコボコにされて
もう泣き寝入りはしないと、差別に立ち向かう。

もう一組、貧しいユダヤ人ターテ(石丸)と
裕福な白人マザー(安蘭)という世界があって
主演クラスの多い群像劇。
主演は石丸さんのようなので王子のびのび。
ファンはホッとします。

マザーの弟ヤンガーブラザーは東くん。
東くんを最初に拝見したのがTDVだったので、
アルフレートにしては背が高すぎてちょっと…
だったのが、ジャージーにご出演ということは
相当歌が上手なわけで、
なにせお顔が美しいよね。
そして、滑舌が悪いようでいて長台詞も完璧なの。

楽しみにしていた舘形さんは
思いのほかダンスがなくてね。
妖しい衣装でポーズはとるんだけど、
これは舘形さんの無駄遣いではないのか?

sasaが観たRENTミミのナンバーワン遥海ちゃんは
慈愛に満ちた表情や演技もよくて
その心が表れる歌声。
そして王子との歌のバランスが絶妙。
一歩引いての歌声なので
王子も出しゃばることなく互いを引き立てあうの。
RENTが良かったのは偶然じゃなかったわ。

コールハウス(井上)はその奥さんを殺され、
怒りで暴走し、人が信じられなくなったところを
もう一度信じてみようとして裏切られる。

その一方、ターテとマザーは心を通わせ、
最終的に家族になった。
ここで、あ~良かったと幸福感に満たされ、
泣きそうになったよ。

人種差別というテーマ自体はちょっと凡庸かなとも思いつつ、
静かに良い作品でした。

『桜の園』追記

書き残したことを追記しますわ。

先行で買ったとはいえ、お席は最前列でした。
ここのところ良い作品が多いのに
お席の方は空席が目立ちます。
これも2階封鎖(2階席は売れてなかった)。
だってチケット高騰なんだもん。
これってきっと材料や経費が上がってるだけで
役者さんの出演料とかスタッフさんのお給料が上がってるわけじゃないよね。
もしこの高騰が収入にも影響するのであれば
日本全体のお給料も上がって
生活水準は変わらず済むのに
そうじゃないからつらくて
やはりチケット買う買わないには大きく影響してくるよね。

で、話変わって、主演ラネーフスカヤの原田美枝子さん。
もともととても好きな女優さんで、
舞台は珍しいから、原田さん目当てで観に行ったの。
その通りに、最前列で観た原田さんは美しかった。
そして、最大ピンチの状況なのに
きっと何とかなるわ、誰かがなんとかしてくれるわよ、
の呑気な奥様役がぴったり。
周りの男性陣はみんななんの役にも立たなくても
ラネーフスカヤを愛していて、
気持ちだけは助けたいと思っている。
そんな誰からも愛されるラネーフスカヤ役がぴったりでした。

あとは成河さんですね。
きっとめんどくさい演技派の成河さんは
新しい思想を語るトロフィーモフにぴったりですよね。
最初ちゃんとキャストを確認してなくて
なんかいい役者さんがいるなあと思ったら
成河さんでした。
やっぱり際立った方なんですね。

八嶋智人さんはコミカルな役かと思ったら
今回の中で一番現実的でした。

演出は去年『セールスマンの死』で拝見したショーン・ホームズさん。
あれは鼻中隔湾曲症手術直後の悲惨な状況で
這うようにして拝見したので記憶が薄いですが
お話自体が良かった。
外国の作品を外国の方が演出ですが
普遍のテーマにもっていくのがすごいですね。

以上、追記でした。

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『桜の園』


■日時:2023年9月24日(日)13:30 3時間(休憩20分)
■会場:キャナルシティ劇場 A列サイド
■出演:原田美枝子、八嶋智人、成河、安藤玉恵、
川島海荷、前原滉、川上友里、竪山隼太、
天野はな、市川しんぺ、松尾貴史、村井國夫

チェーホフの『桜の園』です。
実は先日の『兎、波を走る』の劇中劇って『桜の園』だったんだ。
お話自体は全く知らなかった。

ステージには上空に巨大なコンクリートの箱の蓋のようなものが
ドーンとつるされています。
奥には金網の壁と有刺鉄線。刑務所か?
そしてお話自体はそれがないかのように普通に進んでいきます。

領主のラネーフスカヤ(原田美枝子)が久しぶりに領地に帰ってくると
経営力のない兄のせいで領地である“桜の園”を競売にかけられようとしている。
打開策もないのに、危機感もなく過ごす現実を受け入れようとしないラネーフスカヤたち。

一方、桜の園を出て新しい思想に生きようとする
トロフィーモフ(成河)とラネーフスカヤの娘アーニャ(川島海荷)たち。
かといって、ラネーフスカヤに異見できるわけでもなく、
結局、桜の園は予定通りに競売にかけられるの。
それでもラネーフスカヤが路頭に迷うだけでもなく
苦心したわけでもないのに受け入れ先は見つかって
若者たちは新しい地へと
バラバラの道を歩んでいく。

変革を受け入れない年寄り組と
新しい時代を築いていこうとする若者組
というよくある、凡庸なテーマなのかなと思いながら観ていました。

でも、今舞台にするからには、何かしら今と共通のテーマ
今の人も共感できるものでなければならないわけで、
どこなのかしら。
ラストは老召使フィールス(村井國夫)が、
置き去りにされたことも気付いてもらえず、
桜の園に取り残され息絶える。
そしてずっと舞台の上にあった石の箱が下りてきて
フィールスを閉じ込める。つまりは石棺。
古い時代は終わった。

とか?

が、いつものようにsasaの考察は甘い。

他の人のレビューを見てわかった。
チェーホフ→ロシア→ウクライナ侵攻
あの石の箱と有刺鉄線はチェルノブイリだったのだ。

桜の園を競売で買ったのは、
桜の園の農夫の息子だったロパーヒン(八嶋智人)なのだが、
今や実業家なので、別荘地として貸し出すか
転売するだろう。
そこに原発が立ち、大惨事が起き、
実際に今は石棺で覆われている。

見たくないものは無理やり封じ込めてなきものにする。
世界から抹殺する。
そしてそれを日常では忘れつつある私たち。

これって先日の『兎、波を走る』と同じではないか。

その問題というよりもそれを忘れようとしている自分。

う~ん、2本続けて問題を自分に叩け付けられた。

作品を通じて問うてくれてありがとう。