Category Archives: ミュージカル・お芝居

舞台『無駄な抵抗』


■日時:2023年11月18日(土)13:00 約2時間
■会場:世田谷パブリックシアター
■作・演出:前川知大
■出演:
池谷のぶえ 渡邊圭祐 安井順平 浜田信也
穂志もえか 清水葉月 盛隆二 森下創 大窪人衛
松雪泰子

今回の遠征は全てストプレ。
なかなか集中力のいるものでした。
そのラストはイキウメ前川さん作品。
イキウメ一度見てみたかったのよ。

役者さんは昨日の阿佐谷スパイダースに続きケラ作品と被りますね。
渡邊さんは『アンナ・カレーニナ』で宮沢りえちゃんの相手役だったから
有望株なのでしょう。

電車が停まらなくなった駅の駅前広場が舞台。
電車が停まらないから
大道芸にもカフェにも人が来ない。
仕方ない。特に抗うことなく過ごしている。
そこにカウンセラーの桜が小学校の同級生でもある
依頼人山鳥芽衣(池谷のぶえ)と待ち合わせをしていた。
芽衣はただカウンセリングを受けたいのではなく、
昔桜に言われた「人を殺す」という予言がずっと気になり、
そうならないように気をつけながら、今まで生きてきた。
そのことを話したかったのだ。

桜も悪気があって言ったわけではないけど、
そんなこと言われたら、誰でもずっと心にひっかかりを持つことになる。
それも、芽衣には思い当たることがあったからなおのこと。

家族との関係が悪かったり、
ホストに入れ込んだりという話が語られていくが
結局全てはひとつのことにつながっていた。

小さいころ支援を受けていた叔父から
性的虐待を受けていたのだ。
最初はよくわからず、抵抗もできず、
桜から「人を殺す」運命を告げられてからは
気をつけて生きてきた。
その言葉がなければもしかしたら何らかの手を打てたのかもしれない。

桜は自分の言葉が、
それも自分では覚えていないような無責任な言葉が
他人の人生を大きく左右したことには
少なからずの責任を感じ、
芽衣が叔父を訴える助けになろうとする。
芽衣自身は桜と話すうちに、無駄であっても抵抗しないことには
前に進めないことを知る。

この作品と対象が違っても、
大きな力に抵抗することは、やっても無駄だとよく思う。
会社や上司に行ってもラチが開かず、
そうするうちに、言うことさえやめてしまう。
無力になる。

この作品をみたとて、
抵抗しないことには前に進まない、
結果はどうあれ抵抗することに意味がある
ということにはなりませんが、
芽衣にはきっと意味がある、あってくれ、と思うのでした。

池谷さん、これまではおばあさん役とかが多く、
過去がありながらも立派に生きてる、
背筋がピンとしててジャケットの良く似合う
大人の女性役を見たら、あら御綺麗な方なのね(←失礼)。
パリッとかっこよかった。

松雪さんは昔タモリさんが
「鳥栖にはこんな美人はいないよ」と言ってて
ほんとそうだよなあと当時から思ってましたが、
確実な美人さんというだけでなく、上手な舞台役者さんですね。

阿佐ヶ谷スパイダース「ジャイアンツ」


■日時:2023年11月17日(金)19:00
■会場:新宿シアタートップス
■出演:大久保祥太郎 坂本慶介 志甫まゆ子
伊達暁 智順 富岡晃一郎
内藤ゆき 長塚圭史 中村まこと
中山祐一朗 村岡希美 李千鶴

阿佐ヶ谷スパイダース、そこそこ有名な劇団だと思うのですが
新宿のこんな小さな劇場でやるのね。

老人が昔住んでいた街に行くと
偶然にも長らく会ってなかった
(というか縁切り状態になっていた?)息子と会う。
ぎこちなかった関係もなんとなく家を訪ねることになり
奥さんにもてなしてもらったので
翌日訪ねていくと、そんな家はない。

そこに「けいとう」という謎の現象や
花火、目玉探偵、とか出てきて
また理解できずモヤモヤ。

これからどんどん老いていくのに
恐らく孤独なあの初老の主人公の行末が心配になるし、
盆も正月も一瞬しか帰省せず
メールの返信は最低文字数の息子たちのことを思うと
他人事とも思えず
苦みが残る。

村岡さんは相変わらず面白かった。
ああいう台詞とか間の面白さは一体何なのでしょうね。

舞台『ねじまき鳥クロニクル』


■日時:2023年11月17日(金)13:30
1幕90分/休憩15分/2幕75分
■会場:東京芸術劇場プレイハウス
■原作:村上春樹
■演出・振付・美術:インバル・ピント
■出演:
<演じる・歌う・踊る>
岡田トオル:成河/渡辺大知
笠原メイ:門脇 麦
綿谷ノボル:首藤康之(Wキャスト)
加納マルタ/クレタ:音 くり寿
赤坂シナモン:松岡広大
岡田クミコ:成田亜佑美
牛河:さとうこうじ
間宮:吹越 満
赤坂ナツメグ:銀粉蝶
<特に踊る>
加賀谷一肇、川合ロン、東海林靖志、鈴木美奈子
藤村港平、皆川まゆむ、陸、渡辺はるか

2020年に観たので2回目観劇。
とはいえ、え?前もこうだったっけ?と思うのは
記憶違いだけではなかったようです。
振り付けも演出も相当変わっているらしい。
役者さんたちがますます思いもよらぬ場所から
ムニョムニョ出てきてウゴメイてヌルりと消えていく。
気持ち悪い、気味悪い。

今回は大貫君キャスト日が取れず首藤さんとなりました。
1シーン見せ場はあるし、ダンサーでないとできない役ではあるのですが、
どうだ~!みたいなシーンがないのが残念。
まあほとんどの演者さんが踊り手さんで
ずっと誰かしら踊ってるんですけどね。

一番変革されてたのは、
前回も驚愕した吹越さんのノモンハン独白。
本を読んで一番恐ろしく辛いあのシーンは
感情のない密やかな声で淡々と語られ、
そこに驚異的な身体能力の吹越さんの表現が加わります。
ここって20分ほどあるらしいんだけど
ずっと緊張感が途切れず、魅了する力がすごい。

これだけたくさんお芝居観てるのに
吹越さん他で拝見したことないのよねえ。
舞台役者さんだと思うけど、テレビが多いのかな。
ご縁があればぜひ。

舞台『終わりよければすべてよし』

■日時:2023年11月16日 18:30
第1幕105分 休憩20分 第2幕80分
■会場:新国立劇場
※以下は「尺尺」と同じなので省略しますね。

マチネの「尺尺」があまりに面白かったので期待しすぎたかな。
こちらは事前に本を予習していて面白そうだと思ったわりに
そこまでパンチはなかった。

というのも尺尺はソニン×岡本がメインだったのが
こちらは中島×浦井がメインだったからかも。
中島朋子さんはシェイクスピア女優さんだと思うけど、
このヘレナがそれほど起伏のある役ではなく、
終始おしとやかで大人しく変化が薄い。
コミカルな要素は少なかった。

で、こちらでは浦井くんが大活躍なのだけど、
ヨボヨボのフランス王(岡本)のインパクトは強すぎた。
すごいなあ、後半まで誰だかわからなかったよ。

セットは両方同じものが使われていて、
客席側の水辺にバートラム浦井がドボンと落ちるシーンも。
このバートラムというのがまたクズ男で、
どうして賢いヘレナがあんなにも恋焦がれるのかわからない。

そしてこちらも「ベッドトリック」と言うらしいが
女性陣の策略でもすり替えがあって
女性が道具のような扱われ方をしている。

最終的にはバートラムも渋々ヘレナと結婚することにして
めでたしめでたしってことで終わるけど、
観客の方は「それでいいのか?」みたいな
モヤっとしたものが残り、
こういうのがダークコメディなのかな。

マチネもソワレも3時間ずつくらいあって
6時間座りっぱなし。
観るだけでも大変なのに、その6時間で
違う役を演じる役者さんって偉大。

舞台『尺には尺を』


■日時:2023年11月16日 13:00
第1幕95分 休憩20分 第2幕60分
■会場:新国立劇場
■演出:鵜山 仁
■出演:
岡本健一 浦井健治 中嶋朋子 ソニン 立川三貴
吉村 直 木下浩之 那須佐代子 勝部演之 小長谷勝彦
下総源太朗 藤木久美子 川辺邦弘 亀田佳明
永田江里 内藤裕志 須藤瑞己 福士永大 宮津侑生

シェイクスピア、ダークコメディ交互上演
ソニン出演だし、魅力的なので両方見ることにしました。

まずマチネは「尺には尺を」

英文科なのに読んだことありません。
シェイクスピアはよくわからない喩えが多いし大丈夫かなあ。

全く問題なし。
とてもわかりやすくて面白かった☆
何よりソニンの素晴らしさよ。

★Story
ウィーンの公爵は信頼している部下アンジェロに統治を託して旅に出る。
超真面目でお堅いアンジェロが任を受けてまず
姦淫罪によりクローディオに死刑を命じると
その美しい妹イザベラが命乞いにやってくる。
アンジェロはあろうことか「自分に体を許せば兄の命は助ける」と提案する。

なんじゃそれ?

真面目ということになっているアンジェロのクズ男さは4つ
・かつて婚約者マリアナを意味なく捨てた
・「体を許せば」などという女性蔑視のパワハラ
・マリアナにすりかわっていたとはいえ彼の要求に応じたのに
兄クローディオの死刑を取り下げなかった。
・「告発する」と言われて「誰がそれを信じる?」と権力によるパワハラ。

どこが真面目なのかさっぱりわからない。

で、兄クローディオは姦淫材と言っても不倫ではなく
単に結婚前の恋人だったというだけなので死刑はひどいのだけど、
妹イザベラの「アンジェロがひどい提案をしてきたの。
操を捨てなくていいよね?(お兄さん堪忍してね)」
への返事が
「それくらい仕方ないじゃないか」ってのは何なんだ?

そしてラスト、旅に出たと言っていた侯爵は
実はウィーンにとどまってアンジェロの動向を見ていて
水戸黄門のように正体を明かすわけだが、
そこで終わりではなく、
イザベラの美しさに心奪われ
イザベラの意思を確認することなく
結婚しよう!と手をひいて幕が下りる。

登場する男性陣アンジェロ、クローディオ、公爵の3人ともがクズ男。

なんじゃそれ?

こういうとこがダークコメディということなのか。

全てに冴えわたっていたのがソニンの演技で、
尼僧見習いのイザベラは清楚に現れて命乞いをし、
思いもよらぬ提案には強く抗い、
同意してくれると思っていた兄からは
操を捨ててくれと言われてあきれ果て、
便りにしていた公爵に突然求婚されてびっくり。
状況と感情の起伏が甚だしい。

地位も名誉もある公爵に見初められたのだから
めでたしめでたし
っていう解釈もあるんじゃないかと思うけど、
今回は、公爵に連れて行かれながら
イザベラは何度も客席を振り返って
「これってどういうこと?」っていう表情を向ける。
観客もそう思ってるから「そうよね、これっておかしいよね」
とイザベラに同調・同意する。

ここ、とっても面白かった。
台詞が全て理解できたし、
コメディっていいなあと思った。